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アニメ映画が大ヒット中の漫画「鬼滅の刃」に登場する女性キャラクター「甘露寺蜜璃(かんろじ・みつり)」と名前が同じとして、和歌山県紀の川市の古刹(こさつ)、甘露寺が注目を集めている。週末にはコスプレーヤーらが訪れ、記念撮影する姿も。地元の市もブームに注目し、PR動画を制作して映画館でCM上映。「恋の柱」を公園に建てるなどして「恋の聖地」をアピールしている。

 

共通する「恋」 コスプレーヤー続々

 

甘露寺蜜璃は、鬼滅の刃に登場する剣士。鬼狩りを任務とする鬼殺隊の中で最高位の剣士「柱」の一人で、「恋の呼吸」という技を使う。一方、和歌山県の甘露寺は約360年前の江戸時代に建てられたと伝わり、境内にある梛(なぎ)の木の葉は縁結びの御利益があるとされる。名前や「恋」が共通するとファンの間で話題になり、10月16日に映画が公開されると、さらに人気が上昇。キャラクターの衣装を着た人たちが記念撮影する姿も増えた。

 

同県海南市の主婦、鈴木安佳里(あかり)さん(29)は、長男の玲生(れい)君(6)と長女の琉菜(るな)ちゃん(1)に約3週間かけて手作りした衣装を着せて訪れ、「寺の“和”の雰囲気が衣装にマッチし、来たかいがありました」と笑顔。玲生君も「お母さんが作ってくれた服は格好いい」と満足そうに話した。

 

寺の山下芳巖(ほうがん)住職(71)によると、映画の公開を機に訪れる人が急増。「正確に数えたことはないが、多いときは1日に200人は超えているのでは」と驚く。

 

山下住職が鬼滅の刃を知ったのは今年春ごろ。訪れたファンの女性に聞いて漫画を読み、魅力にはまった。現在では漫画の単行本全巻をそろえる。その魅力を「鬼にならざるを得なかった敵もいるなど、感情移入できる部分がある」とし、「仏教の精神はもちろん、家族愛や仲間を思う心など人生を考える上で指針を示してくれる」と語る。

 

地元も注目、公園に「恋の柱」

 

このブームに地元・紀の川市も注目する。

 

寺近くには、猫駅長で有名な和歌山電鉄貴志川線が通るため、協力して30秒程度のPR動画を制作。映画公開後、大阪・梅田などの映画館で上映前に短縮版をCMとして流した。

 

また市は、増えるコスプレーヤーや観光客らに対応するため、寺に記念撮影の背景となる特製の雨戸を設置し、和歌山電鉄の甘露寺前駅近くのコミュニティセンターには土・日曜に更衣室を用意。周辺で楽しめるスイーツなどを紹介する特設サイトも開設した。寺近くの公園には、市職員らが高さ約2メートルの「恋の柱」を設置した。

 

甘露寺前駅にはカプセル玩具の「恋みくじ」を置く。カプセルには恋占いのおみくじのほか、境内の梛の葉を入れる袋も付けた。梛の葉は縦に葉脈が走っていてちぎろうとしても裂けないため、お守りにするとご縁に恵まれるとされる。

 

かつて猫駅長「たま」で空前のブームに沸いた和歌山電鉄の貴志川線は今年、コロナ禍で利用者が減少しており、担当者は「鬼滅の刃を機に、多くの人が利用してくれるとありがたい」と歓迎している。

 

映画でブーム、全国を席巻

 

全国公開中のアニメ映画「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」は、すでに興行収入が233億4千万円、観客動員数が1750万人に達し、公開から24日間で国内興収歴代5位を記録。ブームは全国各地を席巻している。

 

コンビニエンスストアや食品会社などでは、鬼滅の刃のキャラクターをあしらった商品の販売を続々と展開。店頭や街中に緑やピンクの「鬼滅カラー」があふれる。

 

DVDレンタル大手「TSUTAYA(ツタヤ)」の新業態「蔦屋書店」(東京)では、各店舗でレンタル、購入特典としてコラボレーション景品を配布。日本郵便は、鬼滅の刃のキャラクターをあしらった特製年賀はがきを用意した。

 

JR九州やJR東日本高崎支社(群馬)は、映画に登場する「無限列車」仕立てのSLを運行。JR九州はキャラクターでラッピングした特急も走らせる。

 

京都市の南座では、鬼滅の刃と歌舞伎がコラボした特別展を開催。歌舞伎俳優の尾上松也さんが「アニメの世界観と照らし合わせながら歌舞伎を楽しんで」とアピールした。

 

国の伝統的工芸品「三州(さんしゅう)鬼瓦工芸品」の生産地・愛知県高浜市では、鬼滅の刃のキャラクターを彫刻した瓦の記念碑が登場。

 

横浜市では、鬼滅の刃の主人公「竈門炭治郎(かまど・たんじろう)」を名乗る人物から寄付が寄せられる現象も起きた。

 

ブームは国政にも波及。菅義偉首相は11月2日の衆院予算委員会で、鬼滅の刃のせりふを引用し、野党の質問に「『全集中の呼吸』で答弁させていただく」と発言。加藤勝信官房長官は9日の記者会見で、ブームを「明るいニュースだ」と述べた。

 

11月5日に発表された「2020ユーキャン新語・流行語大賞」の候補30語にも「鬼滅の刃」が選ばれている。

 

筆者:藤崎真生(産経新聞)

 

 

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